牙龍−元姫−


「きゃー。間接キス!」

「う、羨ましすぎるっ!響子ちゃん!アタシのも飲んでいいよ!?はい、ストロー!」

「き、響子!?なに勝手に私のレモンティー飲んでるんだ!自分の飲めって!」





まさかこんなにはしゃぐ人だと思わなかった。



でも――――微笑ましい。



響子さんが心から笑っていることに胸が温かくなる。柔らかい笑顔に安らいでしまう。



響子さんにそんな姿を晒け出させる早苗さんが凄い。同時に羨ましいとも思った。














「なにいきなり笑ってんのよ。そんなにサイン嬉しかったわけ?」





自然と笑っていた私に風見さんが訝しげな声を出す。



大切な私の本を指差しながら言う。




「サインは嬉しいですよ?これは一生の宝物にするつもりですから」

「アンタも響子同様物好きよね」





興味無さげに風見さんが呟いた。



まるで“本ごときが宝物?”と言いたげに嗤笑。



たかが本でもこれはとても価値のある本だ。数分前にそうなったから。



ついさっき私が【深紅の薔薇】に書いてもらった白鷺千代のサイン――――基、橘寿々のサイン入り。








「まさか橘さんが白鷺先生だったなんて、」





響子さんと早苗さんと、はしゃぐ橘さんに目をやる。





「私も吃驚よ。別にファンとかじゃないんだけどね。あんな馬鹿そうな子が白鷺千代なんて世も末よ」

「ですよね、」





私もかなり吃驚した。



事の発端は数分前で早苗さんの“白鷺呼び”から始まった。



風見さんが何故“橘寿々”を“白鷺”と呼んでいるのかを問えば、あっさり早苗さんは橘さんが白鷺千代だと暴露。



ナゼか知っていたらしい響子さんも、まさか早苗さんが言うとは思っていなかったらしく、かなり驚いていた。



当人である橘さんも早苗さんの淡白さに珍しく呆れていた。





「しかも早苗は漫画家の卵なんでしょ?ペンネームなんだっけ…」

「『猫田のの』ですよ」

「そうそう猫田とか言うふざけた名前の奴。『のの』を響子の苗字から取ったって言うのが驚きだけど」

「いま急成長の売れっ子ですよね、猫田のの」

「まさか早苗がねえ〜」





やはり信じられないようで早苗さんをジッと見つめながら、紅茶を優雅に飲む風見さん。



メイクは濃いけど元々顔の造りが整っているため綺麗だ。流石は、響子さんのお友達だと思った。



やっぱり類は友を呼ぶのかな…。
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