牙龍−元姫−
――――良い空気が流れ始めたとき。
「ちょっとスリム!勝手に私の抹茶パフェ食べるなよデブ!」
「この世の食べモノは全て俺の支配下にある」
「なんか無駄にうざカッコいいんだけど!?」
私達5人と、同席の人。
橘さんがテーブルを叩くのに伴いコップに入ったジュースが揺れる。
橘さんは“スリム”さんにデブという何とも矛盾な抗議。
「食い意地はりすぎだ、白鷺は」
「てめえに言われたかねえよ!」
スリムさんがそう言うと青筋を立てる橘さん。だんだん言葉が荒々しげになっている。分からなくもないけど。
スリムさんの周りにはポテト・ハンバーガー・スパゲッティ・フレンチトースト・モンブラン・などありとあらゆるもの食べ物が置かれている。
「スリムは痩せたほうがいい、糖尿病になるし」
「まだ俺はポッチャリ系だから大丈夫だ」
『どこかだ。』
私たちの心の声が重なった。
早苗さんが神妙な面持ちで言ったのに対し、ケロッとしている。
お世辞にもスリムさんは痩せているとは言えない。
優に響子さんの数倍はある身体。ぶくッと出たお腹は歩く度に揺れそう。首が有るのかないのか…、二重顎で覆われている。
「アメリカンドックとコーラはまだか」
「まだ食べんの!?」
目をひん剥く橘さん。
私も流石に目を見開いた。
「当たり前だ。食べることは生きることに必要なのだ白鷺。常に食べ物を消化することが生きている証」
「なに正当化してんの!アンタの場合は食い過ぎなんだ!」
深く頷き同意する風見さんと早苗さん。つられて私も頷いた。
響子さんはスリムさんが未だ食べ続ける量を見て、目を白黒させている。
口を半開きのまま固まっていた。
「アメリカンドックとコーラはまだか」
「しつけえ!」
チョコレートケーキを食べながら辺りを見渡すスリムさん。
それを橘さんが止めていると――――――見知った女性が姿を見せた。