牙龍−元姫−
「お待たせしました〜」
甘ったるい声。
女性は黒と白のフリルのミニスカートの身に纏い、頭にはぴらぴらしたフリルのカチューシャ。
ニーハイが足を長く際立たせている。髪はくるくるの縦巻きロール。
正しくメイドさん。
「遅いぞ冥土」
「イントネーションちげえぞデブ」
メイドさんはピクリと頬を引き攣らせる。甘い声は瞬時に低い声へと変わった。
可愛いメイドさんは元不良で気性が荒い。これが素だ。
こんな可愛い格好は店だけ。普段は露出度の高いギャル。
なんで私がそんなこと知っているかって?
「…お姉ちゃん」
それは私の姉だからだ。
正真正銘このメイドさんは実の姉。
「亜美菜ー!何なんだよこのデブ!さっきから人使い荒過ぎんだけど!ふざけんな!こっちはメイドで家政婦じゃねんだぞ!」
「真菜美、言葉使い」
「はっ!あ、あらヤダ〜。もう、マナったらオ・チャ・メ・さんっ!」
「ハッ」
「ぶっ殺すぞデブ」
「真菜美」
「くっ!ここが店じゃなかったら今頃このデブを絞めてんのにっ!」
鼻で嘲笑するスリムさんにグッと拳を握り締めるお姉ちゃん。
例え店でも風見さんの静止がなきゃ乱闘になってたに違いないよ。
大分前。風見さんとお姉ちゃんはクラブで知り合ったらしい。故にお姉ちゃんの気性の荒らさも知っている。
だからお姉ちゃんのストッパーとして風見さんが居てくれてることは大変有難い。