牙龍−元姫−
春と夏の会話
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【トキメキを忘れないで〜!私を抱き締めて〜!】
とある人気アニメキャラクター・ミルちゃんの甲高い声がラーメン屋の屋台に響く。
マイナーなアニメだが彼らの中では人気絶頂期のミルちゃん。
そんなミルちゃん自身の声で収録されたオープニングソングが最新機種の携帯から流れる。
―――ぴっ。
「なんのようだよ春陽。俺は忙しいんだ」
男は手慣れた様に手で携帯を操作し通話状態へと変えた。
間一発目に、忙しいと言った男はこってり豚骨ラーメンと一緒に頼んだ餃子を食べているが。
春陽(ハルヒ)と呼ばれた男は携帯を通して肥満体の彼に叫ぶ。
『あー!また何か食べてるでしょ!おデブ君になっちゃうよォ?』
「ふん。そういう春陽はもっと食べたほうがいいと思うがな」
『僕は普通だよォ!夏彦が食べ過ぎなのォ〜!』
食べるのを止めろという静止を無視し、構わずラーメンを啜る。こってりラーメンには油が浮いて、味が濃いのが分かる。
どうやら肥満体の彼は夏彦(ナツヒコ)という名前らしい。
『さっさと帰ってきなよォ〜!てか帰ってきてェ!白夜の絡みがうざいんだよォ!千秋が虐めるって煩い!』
「ふん。知らないね。俺はラーメンを食べるので忙しいんだ。切るぞ」
『相変わらず捻くれてるゥ!本当に僕の片割れェ?』
「断じて違う」
『双子だよ!夏彦酷いよォ!意地悪!サド!デブ!』
「五月蝿い!俺はデブじゃない!ただ小太り気味なだけだ!」
――――――いや。かなりの肥満だろ。
ラーメン屋の屋体に居た店主含め客は皆、心の内でそう思った。
鼻息を荒くさせ、夏彦は言う。
「独自の判断で行動したくせに。その上無惨にボコられたヤツに言われたくないな」
『う、煩い!』
「今日俺も会ったぞ?響子ちゃんに」
『え!嘘!なら、もう知り合いってことォ?』
「そうだ。それなり盛り上がった。汗かいたぐらいだからな!」
『…それは夏彦がただ汗っかきなだけじゃ、』
言おうと躊躇いながらも最後まで言い切ることはなかった春陽。
彼なりの片割れに対する配慮か。