牙龍−元姫−




2代目…?
2代目とかあるの?
なら1代目は?



言葉を失う私に寿々ちゃんは笑い思い出すように語る。





「私さ〜。昔は身内が官能小説家とか恥ずかしくって婆ちゃんのこと大嫌いだったんだ」





そっか、白鷺千代は官能小説家。



きっとお婆ちゃんが、白鷺千代の産みの親なんだろう。



暗い道を電灯を照らす。寿々ちゃんの暗い心にも灯りを灯す。無理矢理明るく振る舞う彼女に私は何をして上げられるんだろうか。



ただ、耳を澄ます。





「それはもう思春期のアタシには滅茶苦茶恥ずかしかったんだー!弄られまくったし!美だの芸だの言おうがただのエロ本にしかすぎないんだよ。でも、」





笑顔だった顔が一変。険しくなった。





「でもね、白鷺千代はあるエッセイを出版したんだ。身内や自分の事を綴ったエッセイを」

「エッセイ?」

「今は打ち切られてるから知らないと思うよ。出荷もされてないし」




白鷺千代のエッセイなんて聞いたことがない。きっと無名のときに綴ったなんだろうな。





「アタシ昔スッゴい大怪我したことあったんだ。生死さ迷ったし。婆ちゃんに怒鳴られまくってさ」





笑いながらその時の状況をペラペラ語るけど私は全く笑えなかった。


だって何で普通に生活してたらナイフで刺されるの?それも日常茶飯事だと言う。スリリングな出来事ばかりだ。



私は自然と頬がひきつり、顔が強張ってしまうのを感じた。
< 548 / 776 >

この作品をシェア

pagetop