牙龍−元姫−
「負い目を感じさせてたのかなって、エッセイを読んで思ったよ」
哀愁を帯びた瞳。
ちゃんとお婆さんは寿々ちゃんを想っていたんだよ。ただ気づくのが、遅かった。
「それからアタシ婆ちゃんとちゃんと向き合おうって思ったんだ」
でも死んだ。
もともと病を患ってた人だから。
結局そのエッセイが最後に白鷺千代として綴った小説だったよ。でもね、ある日見つけたの婆ちゃんの書斎で書きかけの小説を。
それを見た私は婆ちゃんの最後まで書ききれなかった小説を書き始めた。それを出版社に持っていって頼み込んだの。私が婆ちゃんの跡を引き継ぎたいって。
「バカみたいでしょ?普通作家に2代目とかないのに。でもアタシは本当に馬鹿だからそんな事ぐらいしか思い付かなくてさ」
「ならあの文学賞受賞作品は、」
「あれが私と婆ちゃんの最初で最後の共同作品“性春白書”だよ」
―――やっぱり。
私の杞憂ではなかった。
私はあの作品に惹かれた。前半は綺麗なドラマチックに進められたストーリーが一転。後半は人間の汚い心理を知り尽くした作品だったから。
「婆ちゃんの小説が認められない理由が書いてて分かったんだよ」
「理由?」
「綺麗過ぎるんだ。何もかも。現実にそんなドラマのような展開ありはしない。夢に夢を乗せすぎてるんだよ」
確かに“性春白書”以来から白鷺千代先生の書き方は変わったと囁かれていた。と言っても私は前の白鷺千代先生の作品を呼んだ事が分からないから知らない。
「どうしても夢のありすぎる作品は遠ざけてしまう。だから誰も白鷺千代を見ようとはしなかった」
夢をみるのは悪いことではない。でもそれ故の共感出来ない部分も多々ある。
きっと“当時の白鷺千代”のターゲットとする年代は定まっていなかった。若い人にもお年寄りの人にも共感は得られていなかった。
「始めはね、これから私は完璧な“白鷺千代”に成りきろう。そう思ってた」
「お婆さんに?」
「うん。でも婆ちゃんの小説を読んで趣旨が変わったんだよ」
白鷺千代を広めてやろうって思ったんだ。
――――力強い目に改めて寿々ちゃんは強いなって、凄いなって、思った。彼女は私とは真逆だ。