牙龍−元姫−
「だいたい、これ何?」
ぺらぺらと本を捲る。分厚い有名な童話小説。辺りは暗いから字はよく読めない。でも小さい文字がぎっしり敷き詰められた書物。
バイクに凭れかかりながらニット帽に聞く。
「いま倉庫で本の整理してるみたいでヤンス!でも皆さん出てきた本を読んでるみたいで、オイラも“シンデレラ”読んでたんス!」
「こんな分厚いの読んでるの?」
「…それ、」
急に苦虫を噛み潰したような顔をされる。
地雷だった?
でも悪いけど、心配するような心、俺は持ち合わせちゃいないから。
「それ元はきょん姉さんが持ってきた本なんでスよ…ずっと倉庫に置いてあったままで…」
「響子先輩の?」
「そうッス。他にも幾つかあるっスよ?」
「ふうん…」
響子先輩はこのニット帽に気に入られてるんですね。…なんか気にくわない。
第一響子先輩は好かれ過ぎなんですよ。はっきり言って異常。
誰しもが目を奪われるぐらいの魅力を兼ね揃える貴女が俺はたまに怖くなる。
「きょん姉さんは意地悪な叔母に虐められたシンデレラみたいでヤンス…」
小さい呟きが聞こえた。
目に影ができる。
響子先輩がシンデレラ?
シンデレラは継母とその二人の娘からほとんど召し使い同然の仕打ちを受けて暮らしていたんだっけ?
「なら継母がアンタ達ってこと?」
「…そう思うッス」
「じゃあ響子先輩は最後アンタ達の所には戻ってこないね」
「っえ!?」
俺は相当性格が悪いのかもしれない。年々あの男に感化されている。