牙龍−元姫−
「シンデレラは王子のもとへ行くんだから」
「お、王子様は総長じゃッ」
「王子は複数居るかも知れないし」
「…王子様が?」
「ガラスの靴を落としたのはシンデレラ。でもそのガラスの靴を拾った王子は誰か分からない。舞踏会だし、誰が拾っても可笑しくはないからね」
「…そ、そこまで考えてなかったでヤンス」
所詮は物語。
いまのも勿論、空想上の話。
――――だからそんな深く考えなくてもいいのに。
深く眉根を寄せて悩むニット帽にそう思った。
「12時の鐘が鳴って去る前に―――――魔法が解ける前にオイラ達が追い出したんス。どうしたらいいんスか?」
「知らない」
「え!?な、なんて白状なんすか千秋君!」
絶望の淵に立たされた奴のような死人染みた顔をして俺に問い質す。
しかし俺はそれをバッサリ切り裂いた。またウザい顔をするから適当に言葉をなげる。
「事の成り行きに任せれば?」
「…なりゆき」
「“これから”なんて魔法使いじゃなきゃ分からないよ」
魔法使いでもわかるかわからないけど。
「魔法使い――――千秋君は魔法使いみたいでヤンス!」
「はぁ?」
「言葉に不思議な魔法が掛かってるッス!優しさはないッスけど肩の荷が降りるような魔法ッス!」
さりげなく優しさはないって言ったよね、コイツ。あながち間違っちゃいないけど。