牙龍−元姫−



それに俺はどっちかと言えば魔法使いより――――――王子の方がいいんだけど。





「その本どうするの?」

「…いつか返したいッス。響子先輩は本を大事にする人ッスから」





大事に持っている“シンデレラ”をギュウッと抱き抱えるニット帽は、“いつか”返したいらしい。



その“いつか”がいつになるかは本当に誰にも分からないけど―――――――――案外直ぐだったりして。





「…渡せればいいね」

「はいっす!」





心にも思っていないことを言葉にする。



悩みが一気にぶっ飛んだお気楽なヤツ。ぱあっと顔を輝かせて自分の事かのように嬉しそうに言う。





「そういえばきょん姉さんと総長達が今朝一緒に居たでヤンス!」

「知ってる」





嫌がる俺を無理矢理引っ張って、その光景を見せたのアンタだし。





「里桜さんも居たでヤンス!里桜さんは千秋君のお姉さんだったんですね?吃驚でヤンス!」

「…姉、」

「仲が良くないでヤンスか?」





なんでこのニット帽は躊躇いもなく率直に聞いてくるのか。悪気がない故のことだろう。
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