牙龍−元姫−



「ふつうだよ」





良くはない。
かといって悪いわけでもない。



必要最低限は話さない。
いつしか、
そうなっていた。





「でもお互い嫌ってはないッス」

「…は?」

「違うでヤンスか?」

「…違うもなにも、」





嫌い?…すきってなに?



どこからが嫌いなので好きなのかがわからない。アイツへの感情なんて分からない。しいて言うならどうしようもない…罪悪感。





「オイラと兄ちゃんと似てるッス!里桜さんと千秋君は!」

「…兄貴?」

「親が離婚して今は偶にしか逢えないんス。でも兄ちゃんはオイラのヒーローで格好いいでヤンス!離れてても常にオイラに気をかけてくれてるッス!」





似てる?俺とアンタが?アイツとその兄貴が似てるってこと?



無いね。互いを互いに気をかけるなんて。今さらすぎる。空いた溝は埋まらない。



例えば、例えばの話、



俺が気にかけてたとしても…
アイツは違う。
アイツがあのことを知れば、確実に俺を嫌いになる。



響子先輩を大事に思っているなら尚更の話。
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