牙龍−元姫−
「あ!千秋君!」
思い出したようにポケットを漁る。慌てて探っているために―――――――ころん。
ガムが転げ落ちる。他にポップな包装紙で包んだ飴玉も。
地面に奪われた視線をニット帽の出された手に移す。
「これ!」
―――当初の目的を忘れる所だった。
牙龍の倉庫近くに止められた、俺の愛用バイク。そこに俺達はいる。倉庫からは死角となって見えない。
数十分前に呼び出された場所には何故か“シンデレラ”を持ったニット帽が。
それに疑問を抱いた俺が尋ねると話が逸れていつの間にか“シンデレラ”の話になっていた…
そして今に至る
やっとニット帽に呼び出された本題へと入る。と言っても、俺からすればこっちは次いでだけど。
「ふうん。本当に用意できたんだ。半信半疑だったんだけど」
手渡された袋。
中にはじゃらじゃら音を鳴らす“コレクション”
手にある袋に、ニット帽が本当に用意したという実感を得る。中身を確かめるかのように、袋を振る。かちゃんかちゃん。
「ええ!信用なさすぎでヤンス!千秋君が出来るかって言ったんじゃないっすか!?」
「まさか本当に用意するとは思わなかっただけ」
「…」
「睨むな―――――でも助かった」
これは本音。
俺が熟すとなると難しい。
怪しまれるし警戒される。
だから俺には無理だった。
コイツだから出来るんだ。
怪しまれずに。
素直に礼を言った俺に目を見開き凝視してくるニット帽に、俺は眉を顰めた。
「…なに」
「わ、笑った!」
「は?」
「ち、千秋君が瞳で笑ったッス!ふんわり、やんわり!か、格好いいッス!もう一回!もう一回だけでいいから笑ってほしいッス!」
「…」
うざ。
しかし無邪気に弾け笑うコイツに―――――あることを確信する、憶測はたったいま確信付いた。