牙龍−元姫−
「(コイツ、意外と鋭い)」
あざといのか、天然なのか。
目で笑った…?
なら、いつから俺が笑っていないことに気付いていた?
いまだに笑っているニット帽は俺の訝しげな眼差しに気がつくことはない。
いつも俺は口で笑う。頬で笑みを象る。全く目が笑っていないことに気がつくヤツは極僅か。なのに――――コイツは気付いていた。
いつから気がついていた?
それに、この無邪気さが俺の知る“アキラ”に似ていた。変に鋭いところもアイツと被る。
兄弟だったら、あの男と血筋関係があるなら、納得出来たのかもしれない。
「それ何に使うでヤンスか?」
ふとニット帽は袋を指す。正確に言えば袋の中を。
「別に」
「まっ、まさか、千秋君にはそんな趣味がッ」
「違う」
即座に否定する。
“そんな趣味”がどんな趣味かは分からないけど、大まかな予想はつく。
その“趣味”は俺の趣味ではない。アイツの趣味だ。俺は頼まれたからやっているだけで、無関係。
「変ッスね。そんなものを必要とするなんて」
「変だよ」
アイツは本当に変だ。
きっとニット帽は“俺に”変と言ったが俺は“アイツに”変だと思った。
ニット帽には共感した。こんなガラクタを必要とするなんて本当に可笑しなヤツだ。