牙龍−元姫−
だけどコレクションなんて二の次。アイツのために、俺がわざわざここまで足を運ぶわけがない。
俺の目的は“彼奴”だ。あの男から頼まれたことを為さなければならない。“あんなヤツ”の監視なんて付いてない。自分でしろよ、あの変態。
「最近どう?」
「え?」
突然の問いにニット帽は一瞬、小首を傾げた。しかし意味がわかると慌てて言う。
「あ、ふ、普通ッスよ!」
「本当に?」
「え、うーん、…あッ!でも最近倉庫に姿がないんスよね」
閃いたように言うニット帽に目を鋭くさせた。
「…来てないの?」
「はいッす。ここ最近はずっと」
「…ふうん」
…最悪、と内心呟く。
微かに顔を顰めた俺にニット帽は不思議そうに言う。
「それにしても、千秋君。どうして彼のことばかり聞くんスか?彼のことが知りたいなら倉庫に来ればいいでヤンス!千秋なら総長もオーケーするッス!」
随分信用されてるね、
なんて思ってしまう。
牙龍の一員でもない俺を易々と倉庫に招き入れる寿戒吏に笑いたくなる。まぁ響子先輩の件でかなり恩はあるらしい。響子先輩だから尚更。これがそこら辺にいる女なら、こうもいかなかった筈。
「それじゃ、約束と違うでしょ」
「うッ!す、すんません!」
「アンタはただ、俺に彼奴の動向を伝えればいいだけ」
「そ、そうッすよね。あまりにコソコソしてるんで、てっきり千秋君は彼と仲良くなりたいのかと…」
「シバいていい?」
「ひい!す、すんません!」
誰が好んであんなヤツと仲良くなりたいと思うか、と睨むとニット帽は震え上がった。