牙龍−元姫−
「…ない」
「何が?」
「此処に置いてあった雑誌は!?ほら!アタシの雑誌!此処に適当に置いてあったじゃん!?」
「下にあるよ」
「…下ぁ?」
「アイツ等が要らない本あるかって聞いてきたから渡した。今ごろゴミの中じゃない?」
あっさり告げる庵に目を見開き、ぷるぷる震える寿々ちゃん。
「馬鹿やろー!いーくんのバーカ!このおたんこなす!間抜け!響子ちゃんにフラれちまえー!」
叫ぶと猛ダッシュで出て行った。
ばびゅーんと効果音つきで。
もしかして雑誌を探しに行ってくれたのかな。あったらいいのに。と言うか"おたんこなす"って…
「ふふっ」
「どうしたの?響子」
「面白いな…って」
思わず頬が綻ぶ。彼女は本当に面白い子だと思う。
寿々ちゃんのことを考えながら部屋を歩く。
部屋を歩き、見渡す。
そして棚に目を凝らした。
その棚だけ散らかってはおらず、綺麗なインテリア。
そして飾ってあるガラス水晶に目が奪われる。
わぁ、きれ〜
じぃっと穴が空くほど見つめれば私の瞳がガラスの水晶玉に映る。
ガラスの水晶に目を奪われながら庵の話に耳を傾けた。
「響子って寿々と仲良いんだ?今まで一緒に遊んでたの?」
「うん」
「寿々と二人で?」
「違うよ?他の子も居たの。楽しかったよ〜」
「…男も居たの?」
男の人?男の人ってスリム君のことかな?スリム君って私からしたら異性よりも“マスコット”とか“キャラクター”の類いのなんだけど。
でも他のお客さんは男性だった、と考えながら水晶の隣にある砂時計を見つめる。
さらさらさら――…
砂が滞りなく引力に従い落ちてゆく。
見つめているだけで時間が経っていくことを、砂時計が証明している。
時間は決して待ってはくれない。