牙龍−元姫−
「うん。男の人いたよ?」
「…へえ」
私は何気なく答えた。本当にあの場には異性も居たから。
でも庵の声のトーンが変わったような気がした。いつも優しい声色なのに、いまは逆に…
「庵?」
不思議に思った私は棚から庵へと向き直る。
怒らせたのかな?と一抹の不安を抱えていると…
「響子、忘れてない?」
「わっ」
振り向けば庵が真後ろに立っていたから驚いた。声が耳元で聞こえたことに肩を揺らす。
急に話を切り出され「何を?」と小首を傾ける。
「僕は前に言ったよね?」
―――前?
前ってまさか。
私の心当たりのある事がひとつ。庵と言えばあの事しか思い浮かばない。
「響子の事、好きだって」
思い出されるのはあの言葉。
静かさが広がる廊下にやんわり響く庵の声。電気の灯りが庵のプラチナの髪を更に明るくさせる。
“僕は響子が好きだよ”
“前みたいに友達としてじゃなく―――1人の女の子として”
頭に過った光景に目を泳がせる。戸惑いを隠せずに。
そんな私に柔らかく微笑むと髪をソッと掬う。
「――――他の男なんて見ないでくれる?」
「、いおり」
「かなり嫉妬深いんだよね」
「…意外」
「響子限定でね?」
指で掬った栗色の髪の毛をくるくる巻き付け弄る。あまりにも優しい手付きに戸惑ってしまう。