牙龍−元姫−
ショートケーキ
庵はわたしが“消える。”と言った。
――デジャブだと思った。
それは里桜にも言われたことのある言葉だったから。
“アンタ、触れたら消えそう。”と距離を置かれていたのを覚えている。
分からない、私は此処にいるのに――――‥。
里桜は私を儚く散る桜だと喩えた。
それは里桜のほうだと思ったけど言えなかった。
庵は私を抱き締めていた腕を緩めると、手を握る。
「おいで」
手を引きながらソファーに座らせてくれた。
「わ、ふかふか」
「買い換えたんだよ」
「そうなの?」
よく見ればピンクで可愛い。
…あれ?ぴんく?
限られた者しか入ることの出来ないこの部屋に、ピンクを好んで買う人がいる?
このソファー、品質が良いし値も張ると思う。だから適当に選んだわけではないはず。
「響子がいつでも来れるように、だって」
「…え?わたし?」
「うん。戒吏達と探しに行ったんだよ」
「…」
ビックリ、した。
目を見開いて思わず庵を凝視する。言葉が出なくなった。
ピンクは確かにスキ。でもそれを態々選んでくれるなんて…。
わたしが此処に来るかも分からないのに。
今日は偶々だったのに。
胸が熱くなった、喉が熱くなった、目尻が熱くなった。
それを隠すために唇を噛み締める。