牙龍−元姫−
理解した途端、此の場からさっさと立ち去りたい気持ちに駆られた。はやく、はやく。
ただ気持ちだけが焦る。アップルパイとかどうでもいいから、早く帰りたいと思った。
――――――しかし、すんなり帰れそうになかった。
「おいおい、てめえ等なに勝手に俺等忘れて喋ってんだゴラァ!」
「あ、寄りたかった?もう、そうならそうと早く言いなよ。だけどガールズトークは男子禁制なんだよ。そんなのも知らないの?駄目だなー。常識だよ?……あ!桃子ちゃんとパジャマパーティーとか遣りたいなぁ!だけど君らは寄せてあげないよ?何たってガールズトークなんだから!」
「ちげえよ!お前絶対馬鹿だろ!」
私は怒鳴る男にビクッと肩を揺らし手をぎゅっと握り締める。怖い。男は橘さんに蹴られてキレているのは分かる。なのに何故この子はこうも平然としているの。それどころかマイペースにおチャラけている。
怖くないのかな――――?
私は凄く怖い。少し震えているのが自分でも分かるもん。震える私と目が合った橘さん、すると突如――――――カッと目が開いた。
あ。やっぱり橘さんの方が怖い。目が血走っている。
「おいロン毛!桃子ちゃん怯えてんじゃん!?どっか行けよ、そのチョロ毛と連れて!」
「チョ、チョロ毛!?善くも俺のチャームポイントを…!ブッ飛ばすぞ!」
「まあ、落ち着けって。お前みたいなブスには興味ないんだよ、俺達は桃子ちゃんに用があんだよ」
私は桃子じゃないよ。
少しだけ余裕があるのか心の中でそう弁解する。橘さんが隣に居るだけで何故か心強いと思った。まずどうして〈桃子〉なんだろう?私は〈響子〉なのに。