牙龍−元姫−
顔面蒼白になりながらも、3人に悪態を付く空に庵が近づく。
「空、おかえり。疲れたでしょ?ハイ、オレンジジュース」
「お!サンキュー」
「あ。ちなみにワサビ入りだから」
「ぶふおおおお!」
一口飲むと瞬時に吐き出した空。飲んでから言うのは遅いと思うけど、庵の場合は確信犯だ。
私はワサビ入りらしいオレンジジュースに目を白黒させる。
「ひーっ!かっれー!辛い辛い!何入れてんだよ!ワサビとか入れんなっつーの!」
涙目の空は何だか可愛い。桃色の髪色とその潤んだ目は女の子にしか見えない。しかし、庵はそんな空をしれっと無視する。
空は慌てて手にしたペットボトルのミネラルウォーターを一気飲みした。
そして一息つき、ワサビ入りオレンジジュースをギュッと握りしめると庵を睨み付け――――‥
「ふざけんなっ!庵が飲め…よ!」
ワサビ入りのオレンジジュースを――――――投げた。
プロの野球選手もビックリの豪速球。
甘党の空は相当頭にキている様子。
投げれば、飲む以前にコップが割れるから危ない。
でも庵はそれに自ら当たるつもりもないのか、ひょいっと避けたが――――――‥
バシャッ
嫌な音が聞こえた。
やけにハッキリと。
部屋の空気が凍った。
運悪く扉から姿を表した人物。
それは…
「す、寿々ちゃん!」
「げっ!」
「運悪すぎじゃね〜の」
私は慌てて駆け寄る。
空は苦虫を噛み潰したような顔をする。
それもそう、寿々ちゃんにワサビ入りオレンジジュースが掛かったから。しかも頭から。
――端でボソッと蒼衣が他人事のように呟いたのが聞こえた。
「わりいな、寿々!」
謝る空は、本当に謝罪しているのか疑うほど明るい。
しかし寿々ちゃんは反応を見せずに俯いたままの状態。怒ってるのかな?
「―――」
「寿々ちゃん?」
微かに呟きが聞こえた私は寿々ちゃんに近づき、手を伸ばす。