牙龍−元姫−





「ぎぃやああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「っわ」





突然すぎる悲痛な叫び声に吃驚。



傍にいた私は手を伸ばしたまま、不可抗力で後ろにひっくり返る。



倒れるっ、と反射的に目を瞑った。















「――ッと、大丈夫か?」

「あ、蒼」





いつまでたっても床に衝突した痛みはない。
蒼が後ろから支えてくれたことで倒れるは免れた。



グリーンアップルの甘い薫りが、ふわッと鼻を掠めた。





「おいブスいきなり叫んでんじゃねえよ!軽くビビったわ!」

「…目が!目がああ!」

「はあ?」

「目が染みるうううう!鼻が痛いいいいい!ツーンて!ツーンてするうううあああ!」





遼が寿々ちゃんに近寄り怒鳴る。寿々ちゃんは目を抑えて倒れるとゴロゴロ床に転がり悶え始めた。



遼はそれを冷めた目で見つめている。
空といい、思いやりがなさすぎる。





「ワサビなんだよな?」

「ワサビだよ?」





寿々ちゃんを可哀想な目で見つめる空が庵に聞く。
ワサビを入れた張本人の庵は他人事のように言った。
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