牙龍−元姫−
肌や体重を気にする私に、蒼衣が手を伸ばしてくる。
「確かに肌もちもちしてんだよな〜」
「え…も、もしかして太ったのかな?」
「ちげえよ。柔らけえっつ〜こと」
ふにっと頬をつつく蒼。さっきの庵と同じように。ジーッと私だけを見つめてくる。あまりの至近距離に気後れにしそうだけど…
いままで何処かに行っていた寿々ちゃんが蒼を押し退けた。
「ああーッ!何やってんの!羨まし…じゃない!困ってるじゃん!止めなよ変態め!アタシも触りた…じゃなくてさっさと離れな!」
「ってえな。随分乱暴じゃね〜の。オメエに変態とか言われたくねえわマジで」
蒼をドカッと押し退けて私の横に座る寿々ちゃん。なぜか若干髪の毛が濡れている気もする。
ポタポタと長い髪から伝う滴。
「どこに行ってたの?」
「顔と髪の毛洗ってきた!ワサビの臭いがキツすぎたからさ!」
「髪の毛濡れてる、風邪引いちゃうよ」
私は少し辺りを見渡すと壁際に近寄り、散らかっている部屋の床に置いてあったドライヤーを手に取る。
ドライヤーのコンセントは差したままだった。そのドライヤーを持ち、床に座ると寿々ちゃんを呼ぶ。
「なにー?」
「前に座って」
寿々ちゃんは不思議そうに近づいてくる。私は座っている前のスペースをポンポンと叩く。
「髪の毛乾かそう?」
「え!?きょ、響子ちゃんがやってくれんの!?」
「うん。イヤ?」
「め、滅相もござらん!全然嫌じゃない!寧ろうぇるかむ!」
「ふふ。熱かったら言ってね?」
慌てて体育座りで私の前に座った寿々ちゃんに微笑すると、ドライヤーのスイッチをONにした。
ブオオンと音を鳴らすドライヤー。
私は寿々ちゃんの長い黒髪を掬い乾かしていく。
「わあ、サラサラだね?」
「そっかなー?結構痛んではいるんだけどな。髪とか乾かすのいつぶりだろ…。響子ちゃんの髪の毛はふわふわ!」
「湿気が多いときはボリュームがすごくなるよ」
「ふんわりして可愛いじゃん!アフロヘアーみたいにふわふわだよね!アフロヘアーと言えば綿飴!響子ちゃんは綿飴ヘアーだ!」
「…それ褒めてるの?」
「ほッ褒めてるよ!?」
ドライヤーの音に混じり私達は会話する。寿々ちゃんの黒くて長い髪はとても綺麗だった。いつも結ってるから分からなかったけど。
然程濡れてはおらず、乾かすのに時間は掛からなかった。
カチッとスイッチをOFFにする。
「終わったよ?」
「…んー…」
「寿々ちゃん?」
曖昧な返事に私は首を傾ける。
するといきなり前に座っていた寿々ちゃんは私に凭れ懸かってきたきたため、咄嗟に支える。