牙龍−元姫−
「響子は食べないの?」
「…うーん」
「食べようよ!響子ちゃん!おいで!」
迷っていると元気に手招きされる。とりあえず呼ばれるがままに近寄った。
「ショートケーキあるよ?アタシはこのモンブラン食べる!」
「俺チョコレート!」
モンブランに目を輝かせる寿々ちゃん。
その横でチョコレートケーキを指差した空に、戒吏と遼と蒼が目をひん剥いた。
遼が空に叫ぶ。あり得ないと。
「ッお前!まだ甘いもん食べんのかよ!?」
「ケーキは当分いらね〜わ」
「…」
蒼はケーキから目を逸らし、戒吏は無言で頷いた。
私は庵に渡されたショートケーキを見る。お皿に乗ったショートケーキと葛藤。白いクリームと赤い苺が私を誘惑する。
チラッと寿々ちゃんと空を見れば手でケーキを掴み何個も食べていた。そんな2人を見ていれば右手が自然と動く…
誘惑に負けた私はフォークを掴み一口だけ食べた。
「…美味しい」
あまりの美味しさに目を見張った。ふんわり広がる甘さ。何よりクリームが濃厚で美味しい。
でもきっと全部は食べきれない。
だから…
「遼、あーん」
「は!?……痛ッ」
私はフォークを遼の口に近づける。食べて貰おうと思った。
それに驚いた遼がソファーからずり落ちた。珍しい。
動揺を露にさせながらも冷静を保とうとする。
「…はぁ?なにやってんだよ。要らねえよケーキなんて」
「はい、食べて?」
「だから」
「あーん」
「…」
何度も言うと無言で口を開けた遼。珍しく従順に従う遼が可愛く思えた。嫌々ながら口を開けた遼にケーキを食べさせる。
「…甘えよバァーカ」
「ふふ。美味しいでしょ?」
甘さに顔を顰めながらも食べてくれた遼に、私は自然と笑顔になる。
「オーイ、響子。俺にはね〜の?」
「でもケーキ要らないって…」
「ん〜…確かにケーキは要らねえけど」
少し考えた表情を浮かべ私を見る蒼は、瞬時に笑みを浮かべた。
何かを企んだような、思い付いたな。