牙龍−元姫−




「響子は食べないの?」

「…うーん」

「食べようよ!響子ちゃん!おいで!」





迷っていると元気に手招きされる。とりあえず呼ばれるがままに近寄った。





「ショートケーキあるよ?アタシはこのモンブラン食べる!」

「俺チョコレート!」





モンブランに目を輝かせる寿々ちゃん。



その横でチョコレートケーキを指差した空に、戒吏と遼と蒼が目をひん剥いた。



遼が空に叫ぶ。あり得ないと。





「ッお前!まだ甘いもん食べんのかよ!?」

「ケーキは当分いらね〜わ」

「…」





蒼はケーキから目を逸らし、戒吏は無言で頷いた。



私は庵に渡されたショートケーキを見る。お皿に乗ったショートケーキと葛藤。白いクリームと赤い苺が私を誘惑する。



チラッと寿々ちゃんと空を見れば手でケーキを掴み何個も食べていた。そんな2人を見ていれば右手が自然と動く…



誘惑に負けた私はフォークを掴み一口だけ食べた。





「…美味しい」





あまりの美味しさに目を見張った。ふんわり広がる甘さ。何よりクリームが濃厚で美味しい。



でもきっと全部は食べきれない。



だから…





「遼、あーん」

「は!?……痛ッ」





私はフォークを遼の口に近づける。食べて貰おうと思った。



それに驚いた遼がソファーからずり落ちた。珍しい。
動揺を露にさせながらも冷静を保とうとする。





「…はぁ?なにやってんだよ。要らねえよケーキなんて」

「はい、食べて?」

「だから」

「あーん」

「…」





何度も言うと無言で口を開けた遼。珍しく従順に従う遼が可愛く思えた。嫌々ながら口を開けた遼にケーキを食べさせる。





「…甘えよバァーカ」

「ふふ。美味しいでしょ?」





甘さに顔を顰めながらも食べてくれた遼に、私は自然と笑顔になる。





「オーイ、響子。俺にはね〜の?」

「でもケーキ要らないって…」

「ん〜…確かにケーキは要らねえけど」





少し考えた表情を浮かべ私を見る蒼は、瞬時に笑みを浮かべた。



何かを企んだような、思い付いたな。
< 607 / 776 >

この作品をシェア

pagetop