牙龍−元姫−



「ケーキは要らねえ。でも、」

「…?」

「こっちは貰っておく」





そして唇の近くについたクリームを舐めた――――舌で。



舐められたときの感覚にゾクッとした。





「いただき〜」





舌をペロッと出す蒼に私の顔は茹で蛸状態。艶かしい瞳で見つめられ頬が沸騰する。



それを見て更に蒼は笑う。



彼の笑みはいちいち心臓に悪い。度々私を狂わす媚薬だ。私の態度に機嫌良くした様子の蒼。



しかし突然わたし達の間に――――――――――グサッ











「何やってるの?蒼。今すぐ響子から離れよう?離れなきゃ次は蒼を狙うから」





庵がフォークを投げてきた。



私と蒼の間に、有り得ない速さで飛んできた。



絶対に私を狙わないとは分かっていながらも背筋が凍った。



だけど蒼は飛んできたフォークを見て口角を上げるだけ。





「おっかねえよオメエ。顔に似合わず横暴だぜ?」

「蒼に言われたくないよ。蒼が響子の傍に居たら妊娠しそうだからね」

「まだ妊娠はしね〜よ」

「まだって…いつかはするの?」

「なに言ってんの?いーくん。そんなの当たり前」

「…」





びゅん。



グサッ。



庵が再度投げたフォークが蒼の真横に刺さる。



そしてまた振り出しに戻る二人の会話。



グサグサッ。



目を逸らすもソファーに刺さるフォークの音がやけに鮮明で冷や汗を伝う。
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