牙龍−元姫−
飛んでくるフォークの恐怖に私は今の場所から避難し、静かな戒吏の横に座った。
空と遼はなにかを言い合い、
寿々ちゃんは何個目かのケーキを黙々と食べている。幾つ食べても大量のケーキは減らない。
それ以前に私はまだショートケーキの半分も食べられてない。
「はァ?いちゃもんつけんなよ。別に俺から言ったわけじゃねえし」
「で、でもズリィ!ッ響子!俺にもそのケーキ頂戴!」
遼と言い合っていた空に声を掛けられた。私はショートケーキから空へと視線を移す。
「ショートケーキならあるよ?」
「…そうじゃなくて」
大量のケーキの箱を指差す。
ショートケーキならまだ沢山ある。何も食べ掛けのものじゃなくても…。
甘いものがスキな空なら食べ掛けじゃなくても丸々ひとつ完食できると思う。
「…ククッ。残念だなァ?『あーん』やって貰えなくて」
遼は空に悪戯な笑みを浮かべながら耳元で何かを囁いた。
私は聞こえなくて首を傾げる。
空はそんな遼に―――――無言で掴みかかった。
「…」
「うおっ。なにすんだテメエ!退きやがれ!つーかいちいち嫉妬なんてウゼエんだよ!」
「うるせえー!調子にのんなよ!?お前なんかその他大勢の一人に過ぎないんだからな!?」
「そりゃあ此方の台詞だ!テメエなんかアレだ!“通りすがり4”とかだ!主要人物にもなれねえ名無しの脇役だっつーの!」
「ふざけんな!お前こそ“農民E”とかだろ!?それか悪役の直ぐ殺られる下っぱの奴だ!お前なんか絶対に英雄にはなれねえよ!」
「ああん!?俺は常に主役に決まってんだろうが!俺から放つ主役級のオーラがそう言っている!」
「…ハッ。腐ったオーラ?」
「殺すぞテメエ」
「「…」」
睨み合う2人。
終わったのかな…?と思いきや、次の瞬間。
ガシッと手を掴み合い、更に激化。闘志を燃やす2人は寿々ちゃんをも巻き込んだ。
寿々ちゃんの食べている抹茶のロールケーキが潰れたのだ。正確には潰された。2人が暴れたことによって。
それに怒った寿々ちゃんが参戦。2人から3人になった闘争は当たり前のように激しさを増す。
少し離れた場所では珍しく蒼と庵がぶつかり合っている。
そしてソファーに刺さるフォークの数が増えていた。