牙龍−元姫−
「桃子ちゃんはこっちな」
男が私の手を掴み引き寄せる。不可抗力で男の傍に寄る身体。怖くてビクッと怯えてしまった。
男が手に触れた感触が気持ち悪い。離してほしい。でも怖くて言えない。しかし、橘さんは怯えてるどころか――……
「気安く触んなボケええええ!」
私の手を掴んでいた男の手をチョップで―――バシィィィ!と思いっきり叩き落とした。叩かれた手から良い音が鳴る。
「いってえ!」
私も今のは痛いと思う。
加減を知らないのか、かなりの力だったと思う。橘さんは意外に暴力的なんだと分かった。言動も行動全て、見た目とは真逆。
「てめえ何しやがんだ!」
隣にいた橘さん曰く"ロン毛"が、橘さんに向かって腕を振るう。
殴られるっ
私は反射的に目をぎゅっと瞑ったが。
…………バシッ
聞こえるのは殴られた音ではなく違う音だった。