牙龍−元姫−
仲悪いんだっけ?
完全に機嫌が悪くなる前に機嫌を戻そうと試みる。
「はい、戒吏」
「…」
ケーキを差したフォークを口に運べば、無言で口を開ける戒吏。
やっぱり可愛い。犬みたい。
「戒吏ペットみたい」
「…あ?ペット?」
「うん。餌をあげる飼い主の私と餌を貰う飼い犬の戒吏。今の状況にピッタリ」
―――と言っても私は犬が苦手だけど。
嫌いではないけど怖い。
小型犬は愛らしくてスキだけど大型犬は怖い。
吠える声もフサフサの身体も全てが大きくて怖い。
そう言った私に戒吏は本気か冗談か、驚く事を述べる。
「なら本当に飼うか?」
「…え?」
「四六時中一緒だけどな。飼うなら忠実なペットになってやるよ」
「…ッなに言って、」
「門限は5時。男の接触は禁止。外出は学校時だけ。この3つは厳守だ」
「…」
はじめは顔を赤らめたけど、厳守の辺りからは呆れ顔へと変わってしまった。
「…何だかペットって言うより、過保護なお父さんって感じだよね」
「お前は目を離すと直ぐ何処かに行くからな」
当たり前と言わんばかりの戒吏に“こんなペット絶対に要らない”と心から思ってしまった。
呆れ気味に戒吏から目を逸らせば目に止まったのは【プチブル】と書かれたポップなレインボー色の袋。
この袋はショートケーキが入っていたもの。
「あれ?このケーキって…」
「それ“プチブル”のケーキ」
顔を傾げて袋を凝視していると、隣に座っている戒吏が教えてくれた。
嘘!プチブル!?
―――と驚き戒吏と袋を交互に見る。
「あそこはまじ勘弁。もう行かねえ。甘ったりぃわ。ケーキも店も。カップルだらけの中に男だけで行った俺を誉めて欲しいぐらいだぜ」
空と寿々ちゃんから離れた遼が、疲れたように言う。
私の左隣にドカッと座ると偉そうに足を組んだ。
プチブルの袋があるならお店に行ったことは分かるけど、あまりに信じ難くて自然と聞いてしまう。
「“プチブル”に行ったの?」
「そうだぜ〜?男4人だけで行っちゃったじゃね〜の。今度は2人で行こうぜ?」
庵の怒りが収まったのか蒼衣が話しかけてくる。
あ、また庵に刺された。