牙龍−元姫−





林君は会いたがらないと断言したわたしに、戒吏は不思議そうに聞いてくる。





「何でだ?」

「…里桜が、殴っちゃったから」





そう。あれは本当に悲惨だった。本物の女王が君臨した瞬間だった。平伏す林君を痛め付けるドエスな彼女。



林君の“あの出来事”はホントに偶々だった。
ただの事故だと私は認識している。
しかし事故と認識しなかったのが里桜だ。



後ろからぶつかってきた生徒のせいで偶々、触れてしまっただけ。











―――戒吏は訳を聞いてくるから私は言った、
偶々起きたあの瞬間の出来事を。










「林君が、私の胸を触ったから」

「…」

「戒吏?」





突然右隣にいる戒吏が無言で立ち上がった。
周りをよく見ればやけに静か。



そしてドスの聞いた声で言い放つ。
凄みの利いた声は静かな部屋にはよく響いた。
















「殺す」

「待て待て待て戒くん」





瞬時に扉から出ていこうとする戒吏を止めた寿々ちゃん。



よく見れば戒吏以外の4人も目がギラついていた。



まさに獲物を捕らえた獣。今すぐにでも林君を殺りにいきそうだ。



引き留める寿々ちゃんを見て安心する。きっと私が彼らを止めることは不可能だから。





「戒君も皆も落ち着きなって―――――‥」





よかった寿々ちゃんマトモで。



なんて考えていると、



その考えは裏切られる。











「アタシが殺るから」

「「「「「オイ」」」」」





皆の声がハモった。いまにも狩りに出ていきそうな形相の寿々ちゃんの肩を庵が押さえこむ。
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