牙龍−元姫−





「いい女にはいい男が寄ってくるのよ〜?おほほほほ」

「…むかつく」





芝居掛かったように御上品に笑いながら化粧を直し始めた風見さんを睨む響子さん。



化粧ポーチを漁る風見さんにりっちゃんが近寄った。





「それCAKEの雑誌に載っていた限定品ですよね?」

「あら。知ってるの?」

「はい。でも数量限定で手に入らなくて…」

「私のお古でいいなら上げるわよ」

「――え。い、いいんですか!?」

「ええ」





りっちゃんのはしゃぎようが珍しい。風見さんの豹柄の化粧ポーチを一緒に見ている。



普段お洒落に興味が無さそうに見えるけど、人並みに華のJK。



まさかあの淡白りっちゃんが…。





「…珍しい、」





小さな呟きが聞こえた。



因みに同じ事を心の内で思っていたが、口に出したのは私ではない。





「…響子さん?」

「え、あ、聞こえてた?」

「はい」





そう。呟いたのは響子さんだった。自分が口に出していたのに気が付かなかったのか若干苦笑い気味。





「…里桜が学校で誰かと話してるなんて珍しいなって、」





――――確かに風見さんが響子さん以外の誰かと話している姿はあまり見かけない。



だけど、それは





「りっちゃんもです」

「…りっちゃんも?」

「はい。基本マイペースなんで私以外とはあまり…」

「そっか。二人とも気が合うのかな?」

「…そうなら良いですけど、」





かなり新鮮且つ斬新だった。



高飛車な風見さんとマイペースなりっちゃん。どちらも深い付き合いは好まなく他人にはあまり興味がない。似ているからこそ共感できる部分も多々あるのかもしれない。



それがりっちゃんにとってプラスになればいいな。



きっと響子さんも風見さんの事をそう思っていると思う。





「なら私は亜美菜ちゃんと仲良くしよーっと」

「ええ!?」

「イヤ?」

「い、いえ!寧ろ此方がお願いしますっ!」

「ふふ。お願いします」





思わず勢いよく手を出してしまった。恥ずかしくなり慌てて引っ込めようとしたけど響子さんが握ってくれた。



…手、小さいな。



手を離すのが名残惜しかったけど表情には出さず渋々離した。



まさかの響子さんからの申し出に戸惑いながらも、有頂天だった。
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