牙龍−元姫−
「いま平良に色目掛けただろ」
「掛けてないよ!」
今日の戒吏は限度も行動も不思議だ。可笑しい、可笑しすぎる。
摩訶不思議な戒吏に平良君も驚いている。(被害者だよ彼は。)
しかも若干顔が青白い。敵と見なしたような鋭い瞳で戒吏に睨まれているからだ。
自分勝手な戒吏に麻痺を切らした私は言う。
「もう戒吏っ。いい加減にして!嫌いになるから!」
「…」
「…だからその目、止めてよ」
どうして私が非難めいた目で見られてるの?私が悪いの?明らかにそう言う目を戒吏はしている。
これではどっちが被害者で加害者なのか分からない。でも絶対私が被害者だ。
もう誰でもいいから本当に戒吏を預かって欲しい。そう心底願ったとき、まさかの平良君が行動に出る。
「そ、総長。響子さんを見るために前列座らなくていいんすか?」
「…」
「そ、そうだよ。戒吏に応援して欲しいな〜…なんて」
戒吏は平良君に目を向け少し悩んだのが分かりここぞと秤に畳み掛ける。
私は平良君とアイコンタクト。
このとき、平良君とは確かに心が通じ合っていた。
ドキドキしながら戒吏を見つめる。
「…気を付けろよ」
そうぶっきら棒に戒吏は言った。
その言葉に待ってましたと言わんばかりに私は目を輝かせ何度も頷いた。解放される嬉しさのあまり高鳴る気持ちを抑える。
「う、うん。行ってくるね?平良君も有り難う」
「いえ全然大丈夫っす!頑張って下さい!」
「うん」
気遣い上手な平良君にニコッと笑みを見せ、私は指定場所へと歩き始めた。
――――――後ろから平良君の叫び声が聞こえた。
(でも聞かなかった事にする私の耳は都合の良い耳をしている。)