牙龍−元姫−
自分の疎さに溜め息をつく。
私らしくない。
――――ふと辺りを見渡せば人が居ない。
それもそうだよね。
指定場所も此処から離れている。校舎もグラウンドも然り。余り人が寄り付かない並木道だから。
歩きながら平良君の叫び声を思い出す。
ああ見えて意外と手の掛かる戒吏。
きっと嫌な意味で賑やかな戒吏と平良君達が居る場所を思い浮かべて呟いた。
「戒吏大人しくしてるかな…」
「今頃響子が居ないからむしゃくしゃして八つ当たりしてんじゃね?」
「そうかな……え?」
一人事のつもりだったのに返事が返ってきて慌てて横を見る。
隣には
空が居た。
いつの間に…と目を見張る。
桃色の前髪をヘアピンで止めて額を出している。
「わっ。ビックリした。隣に居るなら声かけてよ」
悪いと言いながら笑うけど何だか笑顔がぎこちない。
違和感があるのは気のせい…?
そんな疑問を振り切きると先程の牛の話を持ち掛けた。
「…見てた?」
「うん。グラウンドから少し離れた場所で見てたよ」
「……」
牛の迫力を思い出しながら苦笑いする。今だから笑える話とは正にこの事。
しかし私とは裏腹黙りとする空。さっきから様子が可笑しく、小首を傾げる。
「空?」
「…戒吏と、」
「ん?」
「…戒吏と居たよな」
ポツリ。ふと脚を止めた空が小さく呟いた。
必然的に私の足も止まる。
空は俯いているため表情が分からない。
「…なに?戒吏とまた付き合うわけ?」
「…空?」
「まだ、戒吏の事好きなのかよ…」
俯きながら徐々に私に近づいてくる。
靴が地面と擦れ、ジャリ、と鳴る。
すこし不気味な音。
この空には見覚えがあり数歩下がるが近づいく空には無意味だった。
――――ドンッと背中に木が当たる。
慌てて横にズレようとするが空の手が私の行き場を遮った。
「なあ、響子」
やっと見えた空は目は、あの目だった。
久しぶりに、見た。
この瞳はいつぶりだろ。
同時に浮かび上がるのは庵に言われた、あの言葉。