牙龍−元姫−
その時は訳が分からなかった。
忠告された言葉の意味が分かったのは“あの時”
空に髪を掬われる。二つ結びにされた右側の髪を、くるくる自分の指に巻き付けた。
相変わらず左手は顔の真横に置かれてある。
「へぇ。ツインテール?俺はポニーテールのほうが好みだけどな」
「…そ、れは空の、好みでしょ?」
この状況で反論する私はきっと可笑しい。
常日頃強気なわけではないけど、この空には強気でないと危ないと思った。
自分で一線張らなければ誰が張る?
人気の少ない校内の並木道。
誰も、来ない。
「俺の好みは響子だから」
「…」
ダメだ、この声。
聞きたくない。空じゃない。
変わりすぎなんだよ
空のバカ…
甘い声色と艶を含んだ目を細めて笑う。
こういうとき、伊達に蒼達と居るわけではないと思わされる。
何時も“そういう類い”でからかわれている。
でも空だって、男で、牙龍で……わたしとは違う。
そう実感させられてしまうこの空はあまり好きじゃない。
別に女という事にコンプレックスがある訳ではなかった。
ただ皆と私は“違う”という事実が哀しいと思っていた、あの頃。