牙龍−元姫−






「俺だって、男だ」









『確かに女なんて嫌いだよ!けど――――俺だって男なんだよッ!響子を好きになったって不思議じゃねえだろうが!』





同時にリピートされる嘗ての叫び声。



私が空の気持ちを否定したときに“ズルい”と言われて叫ばれた言葉。



何も意味無く否定した訳じゃない。ただ関係を壊したくなかっただけだった。でもその判断は空を傷つけてしまった。





どうしようもなく、居た堪れない気持ちに駈られる。





「戒吏と別れたとき正直、嬉しかった」





額を合わせたまま話すため息が掛かる。
大きな瞳が私を見つめてきた。



空は自分を嘲笑うかのようにフッと笑みを零す。





「ズルいのは、俺の方だ」





目が憂愁を帯びる。



長い睫毛が下がり影が掛かった。
< 665 / 776 >

この作品をシェア

pagetop