牙龍−元姫−
「俺だって、男だ」
『確かに女なんて嫌いだよ!けど――――俺だって男なんだよッ!響子を好きになったって不思議じゃねえだろうが!』
同時にリピートされる嘗ての叫び声。
私が空の気持ちを否定したときに“ズルい”と言われて叫ばれた言葉。
何も意味無く否定した訳じゃない。ただ関係を壊したくなかっただけだった。でもその判断は空を傷つけてしまった。
どうしようもなく、居た堪れない気持ちに駈られる。
「戒吏と別れたとき正直、嬉しかった」
額を合わせたまま話すため息が掛かる。
大きな瞳が私を見つめてきた。
空は自分を嘲笑うかのようにフッと笑みを零す。
「ズルいのは、俺の方だ」
目が憂愁を帯びる。
長い睫毛が下がり影が掛かった。