牙龍−元姫−
その鼓動をジッと感じていた空はスッと胸から手を離すと、左手も木から離した。
そして私から退き距離をとる。
「響子」
「ん?」
「…響子、」
少し俯いていた瞳をあげ私の目を見る空。
躊躇いがちに口を開いては閉じる。
「……」
しかし結局何も言わずに黙って私に背を向けた。
不思議に思い「空?」と呟くと、空に手を伸ばした。
「…はぁ」
突然溜め息をつきしゃがみこんだ空に、伸ばしていた手は宙で止まった。
手を下ろして空の前に回り込み、しゃがみこむ。
「どうしたの?」
「…なんで響子もしゃがむんだよ」
「何でって…空がしゃがむから?」
小首を傾げながら言うと再度ため息をつく。そんな空に私はまた小首を傾げた。
――――暑い日射しの中、涼しい風が吹く。私の栗色の髪が戦(ソヨ)ぎ空の桃色の髪を風が撫でる。しゃがみこんだ私達の視線は同等。
ジッと見つめ合う私達は、端から見れば可笑しい。
「…響子が綺麗になりすぎててビビった」
「わたし?」
「目、合わせられねえ」
どうやら空は私と目をそらしたくて後ろを向き、
向いた途端、気が抜けてしゃがみこんだらしい。