牙龍−元姫−



いまだに手招きする委員長の方へ足を向けながら、
空に手を振ろうと宙に上げた手が止まる。



―――――思わず気になっていた事が口に出てしまう。





「ねえ空、」





けれどハッと我に返り直ぐさま空に言い掛けた言葉を呑み込む。



思いがけない失態から視線を下に向けた。




「……?何だよ?」





空が不思議がるのも無理はない。



でも、言うつもりは更々ない。





「ううん何でもない。また後でね」

「おう」





笑顔で返してくれた空から委員長のほうへと、小走りで駆け寄る。何かを振り切るように。



風を浴びながら堪らず言い掛けて呑み込んだ言葉を考える。










―――――空は他人事のように話していた。だけど空もきっとその三人と一緒に居たはず。



恰も第三者から見た感じで言っていたけど苛ついた遼が一人で居ることは確かなのに蒼と庵のことは“多分”と言った。それは空が遼と一緒だったから。



何も知らないように振る舞ってただけど空が私に話し掛けてきた時から既に“その状態”だった事が更に確信付けた。



何も、苛ついているのは遼だけじゃないと言う事。









どうして空もイライラしてたの?




(何だか、
聞いたら駄目なような気がした)

(踏み込むのを躊躇い、
脚を引いた。)



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