牙龍−元姫−
蛙は逝(カエル)
***
私はいま、猛烈に堪え忍んでいる。
かれこれ何分たったか分からないけど長い時間ガラス張りの水槽を見たまま固まっている。
「野々宮さん!頑張って!」
委員長の声が聞こえるが、そんなものすんなりと入ってくる筈もない。
私の目は、ボコボコとした身体に、にゅるにゅるした肌、ギョロギョロ出た目、全てを拒絶したくなる両生類に釘付け。
恐る恐る手をゆっくり伸ばしてみる。
息を止めてしまうのは不可抗力。致し方ないことだと思う。
「…っ…」
勇気を振り絞り、恐る恐る手を近づける行動をするのはコレで四回目。
現実逃避しながらも震える手を伸ばすが、
やはり直ぐに我に返る。
―――――ゲコッ
「い、いやあ!」
直ぐさま伸ばした手を引っ込め、顔を覆ってしゃがみこむ。
気持ち悪い…!
ゲコッって!ゲコッって言った!
「の、野々宮さん!大丈夫だから!頑張ろ!?」
叫ぶと委員長が慌てて寄ってきた。いまの癒しは委員長だけ。何て心強いんだろう。
でも私には出来ない。
―――蛙を素手で掴むなんて。
罰則を受けてもいい。だから棄権したい。今すぐにでも逃げだしたくなった。