牙龍−元姫−
背がベッドにつき、保健室の白い天井が見える――――――いや、遼が見える。
上に押(の)し掛かった遼の顔はすぐそこにあった。
「りょ、」
「――――何で捨ててねえんだよ。なァ?」
手首が締め付けられギリギリと音を鳴らす。
痛い、物凄くイタイ。
でも「離して」なんて今の遼には言えない。遼が怖いから?…違う。そう言う意味じゃない。
ただ…
苦しそうだから。
何かに押し潰されそうな程に苦痛な表情を浮かべている。
私まで何故か痛くなる。
でも私の言い分も聞いてほしい、
「どうして、捨てるの?」
「……」
「遼が買ってくれたやつだもん。捨てたくな、」
家にある十字架のネックレスを思い出して語る。
しかし、言いかけた言葉は中断させられた。
「―……っぃあ!」
肩を噛まれた事によって。
優しく……なんて、程遠い。
甘く噛むわけでもない。
このまま引き千切られそう。
このまま噛み砕かれてしまいそう。
まさに鋭利な刃物のようだった。
頸に顔を埋めた遼が顔を上げるとその鋭い目が私を捕らえる。
「遼、」
「もっと」
「?」
「名前呼べ」
「…りょ、っん」
又もや言い切る前に首筋に顔を埋めた遼。噛んだ首筋から薄ら出た血に吸い付く姿はまるで吸血鬼。
八重歯が更に吸血鬼かと思わせた。その吸血鬼はもっと血を求めるかのように目がギラつく。