牙龍−元姫−



しかし不意に首筋から囁きが。





「―――に―――を」

「…え?」





聞き取れなくて首を傾げて耳を澄ます私に今度はハッキリと聞こえた呟き。



しかしその呟きに私は更に小首を傾げ、困惑した。














「嫌いになれよ、俺を」





――――そう言い、顔すれすれに拳を落とした。



その衝撃にギシギシとベッドが軋む。





「捨てろよっ!何で捨てねえんだよ!?」





本気で声を荒げる姿は珍しい。いつも“本気”の時は意外と冷静な方なのに―――――今は余裕すら見当たらない。



声を荒げると、誰に言う訳でもなく呟いた言葉を私は聞こえていた。





「――――いっそ、嫌われた方が楽だ」






力が抜け重力に従い私の胸に顔を埋めた遼の声に、泣きそうになった。
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