牙龍−元姫−
「何やってるんですか?」
息苦しいこの空間にやって来てくれた千秋に感謝の意味で泣き付きたくなった。来るのが遅いから叩こうかと計画してたけど、チャラにしてあげるね?
片手に店の袋を持ちながら私に近づく千秋。私も逃げるように千秋のほうへと寄る。
「…袋?」
「混んでるからテークアウトに変えて貰ったんですよ。どうせ座るとこなさそうだし」
「あ、そうだね」
すっかり忘れていた…
私は座る席を見つけるために歩き回ってたんだった。それで、そこでロン毛とチョロ毛の人に絡まれたんだったっけ?
「何かありましたか?」
「え?……い、いろいろ?」
どう説明したらいいかわからず曖昧な答えになった。しかも疑問符。私の曖昧な返答を聞くと千秋は横目でチラリと回りを観察する。
「ふうん…。怪我はないんですか?」
周りの客の反応、態度。
牙龍、橘さん、私。
異様な殺伐とした空気。
些細なヒントから完璧と迄にはいかないが微かながらに把握したのか、私に心配そうな声をかけてくる――――――流石だと思った。私も詳しい説明を省けるから楽だと感じた。