牙龍−元姫−
2人だけの保健室。
重苦しい空気を、携帯から流れ出す音楽が遮る。
それは遼の携帯から。
机に置かれてある遼の携帯から、重苦しい空気に似つかない弾んだ音楽が流暢に流れている。
遼は舌打ちをして、私の上から退いた。
「…んだよ」
荒々しく携帯を掴むと苛立った声で誰かと会話し始める。
「あ?」
『―――、―――』
「今から行く」
『――――!』
二言くらい交わすと直ぐさま通話を切った遼。
微かに聞こえた電話の声は聞き覚えのある声のような気がした。
―――誰?
モヤモヤと胸に突っ掛かる。きっと直で聞いていたら分かったはず。機械を通した声だから、分からない。
「…じゃあな」
悩む私を尻目に携帯をポケットに仕舞った遼が保健室から出ていこうとする。
「まっ、待って!」
背中を向けた遼を裸足で追い掛けた。ペタペタペタッ!と素足で床を走る。