牙龍−元姫−
「…な、んで?」
「要らねえよ。テメエのなんて」
「…っ」
ならどうしてあれ程大切そうに見つめてたの?
何で着けてたの?
何で持ってたの?
分からないよ、遼。
言いたい事が沢山あるのに言葉に出来ない、言葉にならない。
やっぱり思いを言葉にするのは、難しいね。
「だいたい何だよ?」
ハッと鼻で嘲笑う。見下げてくる遼の目は終始冷たいまま。
「腕に胸押し付けて誘ってんのかよ?随分淫乱じゃねえか」
「…っそんなつもり」
「アイツにもそうやって迫ったのかよ」
バッと素早く遼の左腕から離れる。酷い…そんなつもりないのに…と被害者ぶる私は偽善染みている。
若干遼を責めるように心の中で呟くが、思考は直ぐに切り替わる。――――瞬時に遼の言葉の意味を考える。
アイツ?誰?
訳が分からない。何故か突然出てきた“アイツ”
「チッ」
その舌打ちには失態からか悔しさが滲む。
外方(ソッポ)を向き、私から視線を逸らす。
私は空の言葉を思い出して、あるひとつの仮定が出来た。
「庵と何かあったの?」