牙龍−元姫−



腰を掴み、私を優しく引き寄せる蒼に為されるがまま身を委ねる。



抵抗も拒絶も、しない。



抵抗が出来ない訳でも、抵抗したくない訳でもない。



ただ…
どうすればいいか分からない、と言った方が正しい。



残酷に綺麗に咲いていた花の花弁を毟っていた蒼。
素足の横には赤い花びらが落ちている。



花が好きな蒼が花弁を千切り花の生命を途絶えさす程に―――――――――苛立っている。



綺麗なものを壊したい衝動に駆られる程に"何か"に苛立っているのはわかる。



だから、無闇に差し障りが生じる事は出来なかった。













「どうすんだ?この痕」





内心狼狽える私に蒼は人差し指を首筋にツーと伝わせる。



その感触に一瞬肩を震わせながらも蒼の言葉に首を傾げた。



痕?何の?と。



ふと、蒼衣の後ろにある窓ガラスに目が移る。



ガラスには栗色の髪を2つに結んだ体操着姿の女の子が映っている―――――そう、わたしだ。



でも目が据わるのは“私自身”ではない。“私の首”だった。正確に言えば首と肩辺り。





「…これ」

「見事な歯形じゃね〜の。ご丁寧にキスマークなんてのも付いてるしよ〜」

「…キスマーク、」

「独占欲丸出しじゃねえか。何が関係ねぇだよ。言ってる事とやってる事矛盾しまくりだろ」





窓ガラスを見て自然とその赤い痣になっている部分に右手を添える。


歯形は噛まれたからは解るけど、キスマークなんていつ付けたんだろ…?
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