牙龍−元姫−
「蒼?」
「―――いま、なに考えてた?」
蒼は真剣さが帯びた目で私を見据え、腰を掴む手に力が加わった。
カチカチとなる針時計の音が私の心拍を表しているようだ。でも私の心拍は針の音よりも幾分か早い。
ぼんやりと考え事をしていた私を蒼は黙って見ていたんだと悟る。
「戒吏」
その名前に肩が揺れる。
図星だとかそう言った類いではなく純粋に“カイリ”と言う三文字に驚いてしまったから。
「戒吏の事じゃね〜の?」
「…違う…ような違うくもないような、」
曖昧に言う。蒼の言うことはあながち間違ってない。
でも、主体としては自分の気持ちを思想していた。
だからどうしても曖昧になってしまう。
「てっきり俺は戒吏の事だと思ってんだけどよ〜」
違うならいい、と蒼は言う。
“思ってた”じゃなくて…
“思ってる”の間違いじゃないの?
と思った。
現に蒼は言葉とは裏腹に私が戒吏のことを考えていたと信じて疑わない目をしている。
どうして皆は何かあれば私と戒吏を結びつけるんだろう…?
私と戒吏が付き合っていたから?―――でもそれじゃあ私に思いに耽るときは戒吏の事ばかり考えるみたいじゃない。
「別に戒吏の事を考えるのに兎や角言うつもりはね〜けど、」
「(や、だから違うって)」
そう言いたくても、言えなかった。