牙龍−元姫−
蒼が私の頬に手を添えて顔を近づけたから。
笑って、戯れたような口調で言う。
幾ら口調が冗談染みても――――――――目は全く笑っていない。
「俺と居るのに他の男の事なんか考えんのはダメだろ?」
ツツーと頬を撫でる指が私の熱を徐々に上げていく。
ゆっくり頬を滑る指に息を呑む。
笑ってない蒼の目から逃れたくて俯き、床に落ちている赤色の花弁を捕らえる。
「俺はよ〜、かなり嫉妬深いんだぜ?喰われないように気をつけろよ」
「…ん」
「と言いてえとこだけど、もうおせ〜よ。お仕置って事で――…」
小さく首を縦に振り頷いた。神妙に心に刻んだ3秒後に、自分から言った言葉を蒼は撤回した。
直ぐに言葉を撤回され、私は吃驚して花弁を見つめ伏せていた目は蒼を見る。
「……ぁ」
思わず声を零してしまう。
私が驚いている間に更に近づく蒼の顔に肩が揺れる。
少しでも動けば唇が触れそうな距離へと徐々に縮まる。
無意識に足を一歩後退するが、私の腰を掴んでいる蒼の手が離れる事を許してくれない。
私の唇にスローモーションのように近づく蒼衣の唇に―――‥
何かの映画のワンシーンのように感じた。