牙龍−元姫−



蒼が私の頬に手を添えて顔を近づけたから。



笑って、戯れたような口調で言う。


幾ら口調が冗談染みても――――――――目は全く笑っていない。





「俺と居るのに他の男の事なんか考えんのはダメだろ?」





ツツーと頬を撫でる指が私の熱を徐々に上げていく。
ゆっくり頬を滑る指に息を呑む。



笑ってない蒼の目から逃れたくて俯き、床に落ちている赤色の花弁を捕らえる。





「俺はよ〜、かなり嫉妬深いんだぜ?喰われないように気をつけろよ」

「…ん」

「と言いてえとこだけど、もうおせ〜よ。お仕置って事で――…」





小さく首を縦に振り頷いた。神妙に心に刻んだ3秒後に、自分から言った言葉を蒼は撤回した。



直ぐに言葉を撤回され、私は吃驚して花弁を見つめ伏せていた目は蒼を見る。




「……ぁ」





思わず声を零してしまう。
私が驚いている間に更に近づく蒼の顔に肩が揺れる。



少しでも動けば唇が触れそうな距離へと徐々に縮まる。



無意識に足を一歩後退するが、私の腰を掴んでいる蒼の手が離れる事を許してくれない。



私の唇にスローモーションのように近づく蒼衣の唇に―――‥



何かの映画のワンシーンのように感じた。
< 743 / 776 >

この作品をシェア

pagetop