牙龍−元姫−





「――――僕(シモベ)ね〜」





蒼は私の腰から手を離すと、髪をかき上げながら呟いた。



ポタポタと伝う滴。





「ならオメーを"神様"のとこには帰さずによ〜?」





平良君にクックッと喉で笑った蒼。


私は俯きながら肩を揺らしている蒼に恐怖を抱き、右足を1歩退いた。










「一生、俺の下僕になって貰おうじゃねえの」





冷たい目で笑いかけた蒼を見た途端――――――…



平良君は即座に走り出した。



邪魔だと言いたげに脱ぎ捨てられたマントや帽子が虚しく置いていかれた。





「逃がすわけねえよ」





不気味に呟いた蒼に平良君には御愁傷様と拝んだ。逃げても本気の蒼には直ぐ捕まってしまうと思う。


窓の縁に足を掛けた蒼。





「響子」

「ん?」





振り返った蒼は指を花弁が少なくなった花を指す。
私が"綺麗"と言った花を。





「これ、ゼラニウム」





それだけ言うとヒョイッと窓を飛び越えて素早く走り出した。普段の蒼とは似つかわしい素早さ。



―――遠くからは平良君の叫び声が聞こえた。



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