牙龍−元姫−
――――――――――――――――――――
静粛が戻る保健室。
ここに来たときとは違って花弁が床にばら蒔かれている。
私しかいない保健室は静かだ。
(カチカチ、カチカチ、)
静かさを埋めるように鳴る針の音が寂しさも埋める。
「――…ゼラニウム?」
蒼が出ていった窓を見つめて小声で呟いた。
花の名前は何を意味するのか…
私は保健室の本棚に目を移し
ペタッ…ペタッ…
と素足で白い床を歩く。
本棚の前に立つと並べられた本に指を這わせる。
やっぱり保健室なんかに有るわけ無いよね…と落胆するが目当ての本を見つけて目を輝かす。
「……あった」
手に取った本。分厚い【花図鑑】と書かれた本を持ちページを捲る。
流れ行く字を目で追い目当ての花を探す。
そしてあるページで止め小難しい文字が並ぶ行を指でなぞる。
《ゼラニウム》
別名・テンジクアオイ(天竺葵)など
「…アオイって、蒼の名前みたい」
受け狙い?とクスッと笑う。