牙龍−元姫−





「お前は騙されてんだよ!」




テーブルをバンッと叩き立ち上がるのは、空。怒り・不安・焦り・それらの気持ちを抑える術もどうしたらいいのかも解らないのだろう。


椅子から立ち上がり抗議する空に寿々は如何程『なにこいつ』みたいな顔をしている。




「は?なに?空たん?」

「大体"桃子"なんて偽名名乗られて仲良くしてんじゃねえよ!お前バカだろ!」




先ほどより強めに言い放った。いつからか空と寿々に皆の視線が集まっている。それは誰もが気になっていたことだった。




「桃子ちゃんは桃子ちゃんなんだってば!」

「―――っだから!」




噛み合わない話に、空はまた何か言おうとする。


すれ違う会話を続ける空と寿々に拉致があかないと思い俺は割って入った。





「あの子は桃子じゃないよ」

「いーくん?」




割って入った俺に『いーくん』と疑問符をつける。


『いーくん』"彼女"にもそう呼ばれた事はなかった。華が飛び散るような笑顔と透き通るような綺麗な美声で『庵』と読んでいた。
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