牙龍−元姫−
ふと思った事に固まる。
『だって千秋は』
――――――なに?
千秋は何?
思えば、私は千秋の事を良く知らない。
急に千秋が黒髪に銀色のメッシュを入れた理由も。わざわざ銀色に髪を染めて神楽坂に来た理由も。わたしは千秋の事を何一つ知らない。
わたしが知るのは昔の千秋であって“今の千秋”をよく知らない。その事実に千秋との距離を感じてしまう。
里桜も然り。いつも私の事ばかりで里桜の身の上話を聞いた事なんてあった?私が里桜に手を差し伸べた事は?―――ないと、思う。
あの姉弟の“南”の部分を深くは知らない。東の学校に通う南の住人の姉弟。プライベートである南の部分を、よく知らない。
南を統治する季神。何らかの形で南に住む千秋が季神の“春”と知り合いになっても、可笑しくはない。