牙龍−元姫−
「え?なにってギャルゲーの―――――」
「はあ!?ふざけてんのかよ!」
「断じてふざけてない!桃子ちゃんを馬鹿にすんな!」
いや。寧ろ馬鹿にされているのは"ギャルゲーの桃子ちゃん"ではなく"神楽坂の橘寿々"だ。
理解した空は寿々に怒鳴るが寿々は当たり前のように反論する。勢いの余り寿々も立ち上がり空と睨み合う。
「とりあえず二人とも座りなよ、落ち着いて」
二人を宥め、座るように託す。
渋々といった形だが、座る二人に僕はホッと一息。こんな所で暴れられちゃ洒落にならないよ。
座った寿々に聞きたい事を聞く。寿々は自棄になったのか、食べるのを再開している。寿々がここまで苛つくのは珍しい。普段がおチャラけているからね。
「"桃子"ちゃんの本名知ってる?」
「本名?」
食べながら聞き返してくる寿々。僕の質問にピクリと四人は反応を示す。本当に僅かながら。
「桃子ちゃんだよね!」
「いや、だから―――」
「テメエは脳ミソ入ってんのかよ!?桃子っつーのはギャルゲーの話だろうが!ああ゙!?いますぐ【本名】っつー単語を国語辞典で調べて来い!寧ろ辞典持ち歩け!」
麻痺を切らしたのか寿々に向かって遼が言う。空も短気だが遼も大概だよね。みんな寿々の惚けた返答にかなり苛ついている様子。素だから仕方ないよ。
クリームドーナツを食べていた寿々は『はっ!?』として恰かも今気がつきました!と言う顔をする。
その表情に全員が呆れ顔を見せた。僕はそんなことだろうと思ったけど。あくまで馴れだ。