牙龍−元姫−
野々宮響子
俺達の空間に、無言の禁句とされていた彼女の名前が耳に響く。
禁句の名前を出したのは、
「それがアイツの名前。感謝しろよ?」
不敵に笑う蒼衣だった。
煙草に火をつけ噴かす空は男の僕からみても色艶。
かなり意外だった。まさか蒼衣がその名前を出すとは、思わなかったから。
「蒼っちー!有難うー!愛してるうううー!」
「お〜。俺は愛してね〜けどよ。蒼っちは男に興味ねえから」
「ノリ悪っ!つか男じゃねーし!でもそんな蒼っちも素敵!」
「当たり前じゃねえか」
名前を教えてくれた嬉しさで蒼をおだて誉めまくる。さりげなく何時もなら怒る失礼な言葉にも今は動じない寿々。
解らない不気味な笑いをしながら上機嫌。
「キョオコちゃんかー。ほんとに可愛いなー。響子ちゃんかー…」
ただひたすらに彼女の名前を呟きどこか遠い目をする寿々。きっと彼女を思い浮かべている筈。