牙龍−元姫−
「あっあり得ない!」
「事実だ」
反論する寿々はバッサリと戒吏に切り捨てられる。
寿々は先ほどまで持っていたチョコドーナツをトレーに戻す。漸く事の重大さがわかったんだろう。
寿々は何を思ったか、俯いた。
彼女に会う前は『その女の子に会ったらバジッとアタシが一発ビンタお見舞いしてやるZeeee!そして天下統一じゃああああ!世はタチバナ時代!うひひひひ!信長公に明日はない!うひゃひゃひゃひゃ!』
牙龍での裏切りの話をしたときに言っていた。そんな寿々はいま何を思うのか。彼女への憎しみ?彼女と馴れ馴れしくしていた自分への負い目?
誰もが口を閉ざす空間。
空気が重い…
「……証拠は?」
重い空気を壊したのは、意外にも寿々だった。
それも彼女の肩を持つかのような発言。
「証拠はどこにあるの?」
「証拠も何もアイツが言った。それが証拠だ」
寿々に返答したのは、これまた意外。戒吏だった。牙龍総長である自分の仲間を裏切った彼女が許せないんだろう。そんな戒吏に寿々は顔を歪めた。
「桃子ちゃ―――ううん。響子ちゃんは裏切るような子じゃないよ」