牙龍−元姫−




それはみんな同じだ。



彼女が裏切ったなんて、思いたくもない―――――――――そんな僕は信じていないうちの一人。


彼女が裏切ってないという人は牙龍にちらほらいる。彼女の人柄の良さがそう思うやつを繋ぎ止める。でも戒吏達の手前、言えるわけがない。


彼女は……

『響子は裏切ってないよ』

なんて言えるわけがなかった。






「何かしら理由があるんだよ、きっと」



だから、堂々と胸をはって言える寿々が羨ましい。僕は寿々みたいに真っ直ぐな訳じゃない。弱い。響子を堂々と守ることも、側にいることも出来ない。








「理由って何だよ、アイツ自信が言ったんだよ。それが事実じゃねえってのか?」



希に良くこう言う真剣な瞳をする遼。何を考えているのか、わからない瞳。吸い込まれそうなくらいの真剣な瞳で寿々を見る。




「で、でも」




いまだ、何か言おうとする。


響子が裏切り者なんて思えないんだろう、それは僕も同じ。


ひとつ違うのは口に出すか出さないか。だが気持ちは同じ。


しかし自ずと口に出してしまうと――――――――――――ほら。





「お前に何がわかるんだよ!!」



壊れる奴が出てくる。




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